(日本二 十六聖人記念館所蔵)聖フランシスコ・ザビエル書簡の日本語訳
ポルトガ ル国王ジョアソ三世にあてて
一五四六年五月十六日 アンボインより

 陛下よ。
〔説教者が必要です〕
 1 インド地方では説教者が足りないために、私たちポルトガル人のあいだでさえも、キリストの聖なる信仰が失われつつあります。それで、説教者がたいへ ん必要であることを陛下に申しあげるため、他の経路でもお手紙をさしあげました。
このように申しあげますのは、私があちこちの要塞を訪ねた数かずの経験にもとづいてのことでございます。〔その原因は要塞のポルトガル人が〕未信者たちと 絶えず商取引をしているために信仰が薄く、購い主、救い主であるキリストへの信仰よりも、しばしば物質的な利益のみを念頭においているからでございます。 ポルトガル人と結婚しているインド婦人たちや混血児たちは、自分たちの血統はポルトガル人であるが、キリスト教とは無関係だと言って平然としております。 この原因は、こちらでキリストの教えを宣べ伝える説教者たちが不足しているからでございます。
〔宗教裁判所の設置が必要〕
 2 インドで必要とする第二のことは、こちらで生活している人たちが善良な信者となるために、陛下が宗教裁判所を設置してくださることです。こちらでは モイゼの律法に従って生活する〔ユダヤ教徒〕やまたイスラム教の宗派に属している者たちが、神への恐れや世間への恥じらいなしに平然と生活しております。 そしてこれらの人びとが大勢、しかもすべての要塞に散らばっておりますので、宗教裁判所や多くの説教者が必要です。陛下におかれましては、インドにおける 誠実、忠誠な臣下が必要とするこれらのことを、どうかご配慮くださいますように。
〔二人の艦長の忠誠な働きに褒賞を〕
 3 メキシコからこちらへ遠征して来たスペイン人による〔攻撃のために危殆に瀕した〕要塞を救うべく、インドからモルッカ諸島へ派遣された艦隊の総司令 官フエルナンド・デ・ソーザ〔・デ・タウォラ〕とともに、誠実、忠誠な陛下の臣下である三人の艦長がこちらに到着いたしました。この三人のうちの一人、 ジョアン・ガルヴァンはジロロでイスラム教徒の砲撃により殺されました。他の二人、マヌエル・デ・メスキタとリオネル・デ・リマは、陛下のためにモルッカ 諸島の要塞を敵の圧迫から解放すべく、よく働きました。
 彼らは私財を費やし、友人たちから借りてまで、貧しいインド人水兵に食物を与え、またメキシコから来たスペイン人たちをもてなし、衣類や食物を調えて、 彼らを敵対者としてでなく、隣人として尽くしております。陛下の臣下たるこれら艦長たちは、不正な商人としてよりも騎士としての〔精神をもって働き〕、ま た〔事実〕、商人ではありませんので、神がこの地に与えてくださった丁子からの収益を、自身のために使わずに、人びとを助けるために使いました。彼らはそ の奉仕に対して、第一に神から、次に陛下からの褒賞を期待しています。なぜなら、彼らはモルッカ諸島への渡航に際して、霊魂にとってもまた身体にとって も、たいへんな危険をおかしながらよく奉仕しているからでございます。
 陛下におかれましては、マヌユル・デ・メスキタが、スペイン人やポルトガル人が大勢いる船へ行って、誰にでも自分の費用で食物を与え、また自分の荷物を 運んで来て、船員たちに食物を与えたこと、またリオネル・デ・リマも、たくさんの費用を使いましたことを、お心にとどめおかれますように。陛下におかれま しては、褒賞にふさわしい彼らに報いを与えることを、お心におとどめおきいただきとうございます。
 主なる神が、神への大いなる奉仕と聖なる信仰を広めるため、御国の繁栄と陛下のご長寿とをお恵みくださいますことを。

アンボンより 一五四六年五月一六日
        降下の無益な僕、
          フランシスコ

上のテキストは、『聖フランシスコ・ザビエル全書簡』、河野純徳訳、平 凡社、1985(昭和60)年、書二四八〜二五〇頁、簡第五七による。
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